nearproの日記

特に意味はありません。主に読んだ本をただただ記録します。

雪国

雪国

雪国

恐らく日本で一番有名な『国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。』という書き出しから始まる川端康成の代表作。恥ずかしながら川端康成は難解な印象をもっていたし、何より太宰の敵として10代の頃から僕は認識してしまっているので、ほとんど読んでおらず、本作も最近ようやく初めて読んだ。

(親の財産で働かなくても生きていける)妻子持ちの島村が旅先の雪国で出会った駒子と葉子という二人の女性のお話。こう書くと、いかにも残念な感じしかしないけれど、非常に素晴らしい作品。

「省略」と「予言」というのがこの小説の非常に重要な要素であり、美しさを印象づけるように思った。登場人物の心情が自然の風景として描かれ、そこから進む物語の展開を暗示していく。また、言葉や状況に多くの繰り返しが登場し、まさに交響曲的。

また、この小説(あるいは川端康成)の凄みは、驚くほど作者の感情が無い点である。登場人物が作者の心情を代弁するという点において、ほぼ省略されている。それもあって、読んでいても意味が不明に思う点が多々出てくるので読んだ人や読むタイミングによっては全く違う印象を受けるんだろう。

自分の仕事によって自分を冷笑することは、甘ったれた楽しみなのだろう。そんなところから彼の哀れな夢幻の世界が生まれるのかもしれぬ。

島村に向けられた駒子のいじらしいほどの愛と無常観がとにかく切ない。

駒子は言う。「生きた人間だと、思うようにはっきりもできないから、せめて死んだ人にははっきりしとくのよ。」