nearproの日記

特に意味はありません。主に読んだ本をただただ記録します。

椿姫

椿姫 (光文社古典新訳文庫)

椿姫 (光文社古典新訳文庫)

光文社の古典新訳で読んだ。最近は考えるのも面倒なのでとりあえず光文社買っとけばいいやというようなノリで買っている気がする。たまにとんでもない迷作があるけれども、だいたいは読みやすいし何より他の文庫にはない現代的な視点での訳者解説が読めることが嬉しい。

で、戯曲やヴェルディのオペラとしても有名な椿姫だけど、いずれもストーリーや配役がかなり異なっていて私は小説が一番おすすめできる。高級娼婦と青年との間の愛は非常に感動的だし、アルマンの嫉妬に狂った行動や、復讐のための無関心といった思想は童貞文学愛好家として親しみを覚える。

「19世紀のパリ版」マノン・レスコーと言ってしまえばそれまでな気もするけれど、マノン・レスコーが18世紀前半の作品ということもあって椿姫のほうが遥かに読みやすい。

あまり深くは考察できていないけれど、マノンはグリューの腕に抱かれて砂漠で死ぬのに対し、マルグリットは唯一の友人が看取る中、孤独に死んでしまう。二人の死に方の違いは興味深い。また、マノン・レスコーは、常にグリューが奴隷である構図を思い浮かべるが、椿姫について考えると、マルグリットとアルマンの間にある主人と奴隷の関係は必ずしも一定では無い点も考える余地がある。(グリューの反抗はほとんどやけっぱちに近いが、アルマンの反抗はそれよりもよっぽど反抗的で復讐や拒絶の色が強い)

ああ、あれは不思議な一夜でした。マルグリットがぼくに浴びせかける接吻のなかに、彼女の全生涯が乗りうつったようでした。そしてぼくのほうは、彼女を愛しに愛したので、その熱病のような陶酔の真っ最中で、もう絶対に他の男のものにならないように、いっそのこと彼女を殺したらどうだろうかと何度も思っていたのです。

例に漏れず解説が秀逸。解説によれば「愛」ではなく「承認」がこの作品の本質であるとあった。なかなか面白い。 確かに、椿姫の中に「(愛の)情熱は受難である」という、いかにもフランス的な何かを感じることができる。

いずれにせよ、童貞文学についてどこかで考える機会があれば、もうすこしツッコんでみようと思いつつ、今回は普通に感動的な話を普通に感動的に読んでしまった感が否めないので、反省しよう。

どうでもいいけど、作中には多くのパリの風景が登場し、半ば観光ガイド的に訳者解説が入っていたため、パリに行きたい欲求がすごくなった。