nearproの日記

特に意味はありません。主に読んだ本をただただ記録します。

谷崎潤一郎フェティシズム小説集

谷崎潤一郎フェティシズム小説集 (集英社文庫)

谷崎潤一郎フェティシズム小説集 (集英社文庫)

谷崎潤一郎の最初期の『刺青』をはじめとする変態短編を6篇収録。 谷崎文学といえばヌメヌメじっとりな文章で描かれる女性の容姿、そして無駄に明らかすぎる服装の描画が一つの醍醐味だと思ってるんですが、そんな谷崎っぽさが満載で楽しいです。『痴人の愛』なんかでも発揮されている、谷崎の衣服・服飾に対する知識・描画は、それを身にまとう女性の肌への異常な執着の現れなんでしょうか。

しかし、脚や肌だけではなく、『悪魔』では女性の鼻水のついたハンカチをいつまでもクンカクンカして快感を得る変態が描かれ、『富美子の足』では女性に顔面を踏まれ快楽の中昇天する老人が描かれる。(脚フェチとマゾヒズムは非常に相性の良い合わせ技ですね)

『憎念』では鼻の形と動きだけでひとりの人間を憎むことができるということと、その感情の発露が性慾と同様であることを明らかにし、フェティシズムとは何かを明らかにしています。

お富美さんは生まれてから十七になるまで、この踵で畳と布団より外には堅い物を蹈んだ事がないのでしょう。僕は一人の男子として生きているよりも、こんな美しい踵となって、お富美さんの足の裏に附くことが出来れば、その方がどんなに幸福だかしれないとさえ思いました。それでなければ、お富美さんの踵に蹈まれる畳になりたいとも思いました。僕の生命とお富美さんの踵と、この世の中でどっちが貴いかといえば、僕は言下に後者の方が貴いと答えます。お富美さんの踵のためなら、僕は喜んで死んでみせます。―『富美子の足』

「○○フェチなんですよー」とか言う人は、その言葉は、私は性的倒錯者であり、性行為を含まないその部分・あるいは無生物に対して異常な性慾と快感、あるいは適当でない場合においては憎悪を感じる人間である、ということを宣言していることに注意されたい。