nearproの日記

特に意味はありません。主に読んだ本をただただ記録します。

ある微笑

ある微笑 (新潮文庫)

ある微笑 (新潮文庫)

悲しみよこんにちはで衝撃的なデビューを果たしたサガンの二作目。主人公は20歳の学生、ドミニック。前作同様、執筆時のサガンの年齢とほぼ同じである。『悲しみよ こんにちは』は母性の象徴としてアンヌが登場するが、本作では同じ母性の象徴的存在としてフランソワーズが登場する。フランソワーズはドミニックを実の娘のように哀れみ、愛を注いでくれる存在である。

基本的なあらすじは、ドミニックはそんな大好きなフランソワーズの夫であるリュックに恋をして、ひと時のアヴァンチュールを楽しむが、最終的にフランソワーズがすべてを知り不倫の恋は終末を迎える、というもの。所謂、フランス文学的な、大人が子供に対してイニシエーションを施し、子供が大人になる話だ。そういう意味では、男女の違いはあれど、コレットの『青い麦』に近い。

きっと、かれが現在のようでいることはもう決してないだろう。けれど、この一瞬は今此処にあるのだ、私たちのために。私は、それが恋なのだか、それとも気が合うということなのだか知らない。でもそんなことは重大ではないのだ。

シニカルな少女が、どんどんと恋の深みにハマる様子は、同年代でなくともどこかしら懐かしみを覚えながら読むことができるんじゃないかと思う。すべてを自覚しているつもりでいて、全くそんなことはない。そして、気づいた時には、リュックなしでは生きていけない自分がいることに気づく。その感情の爆発とその後に続く絶望の日々。瞬間瞬間を生きる少女がその過ちに気づくさま。この辺りの描写はさすがサガンという感じだった。

悲しみよこんにちは』が少女の狂気を向けられたアンヌの悲劇的な結末で終結するのに対し、こちらは、鏡に映る“微笑み”で幕を閉じる。それは、単にひとつの恋を克服した姿かも知れないし、あるいは、狂気を飲み込み消化することによって、子どもから大人へと変わる、そんな瞬間なのかもしれない。