nearproの日記

特に意味はありません。主に読んだ本をただただ記録します。

すばらしい雲

すばらしい雲 (新潮文庫 サ 2-5)

すばらしい雲 (新潮文庫 サ 2-5)

サガン五番目の小説。田辺聖子の「ジョゼと虎と魚たち」の主人公の名前の元ネタとなったのがこの小説に登場するジョゼであることで有名。また、ジョゼ三部作を成す、「一年ののち」、「すばらしい雲」、「失われた横顔」の第二作でもあります。

「一年ののち」から2年が経ったジョゼのお話。ジョゼはアメリカ人の金持ちの美男子アラン・アッシュに首ったけになった後に結婚するが、アランは病的な嫉妬妄想をもつ男だった…。というところから話ははじまる。

逃げても逃げても、執拗に追いかけてくるアランに悩まされる中、作家としての成功を収めながらジョゼへの愛情を再び抱くベルナール、アランを愛するローラ・ドール夫人。ジョゼのかつてのアマン、マルク。相変わらず、好いた好かれた的な物語が続く。ただ、「一年ののち」は群像劇だったが、今作はもっぱらジョゼ中心に描かれる。

タイトルの「すばらしい雲」は、ボードレールのパリの憂愁の冒頭、異邦人の一節である。一番好きなものを問われ、家族や祖国、金でもないと言う異邦人が最後に言った言葉から取られている。

「では一体何を好むのか、不思議なる異邦人よ?」 「僕は好む……流れ行く雲を……見よ、あそこに……あそこに……すばらしい雲が!」

(この「すばらしい雲」という一節は、「一年ののち」でベアトリスへの恋に破れ、ジョリオの策略もあって酒と女に溺れ、アル中になったアラン・マリグラスが、ベルナールに放った言葉にも引用される)

そんなこの作品。三部作の中で一番しっくりこなかった。嫉妬深い夫の嫌がらせの度に「もうやだ!」と思いながら、ちょっとした出来事やタイミングで深い愛情に包まれて、夫婦生活を続けていくジョゼの心情の大部分は理解し難い。わからなくもないけど、読んでてイライラしてしまった…。

それから、ジョゼは話し出した。微に入り細に入り全部を話した。アパルトマンはどうだったか、どんなふうにマルクが彼女の着物を脱がせたか、彼らの位置、彼らの愛撫、彼女を征服する瞬間に彼が何と言ったか、それから彼女に強要したことなどを。彼女は最も的確な言葉を使い、実際、一生懸命に思い出そうとしていた。アランは動かなかった。彼女が話し終わると、彼は妙な溜息をした。

これといっておすすめはできないが、怠惰と惰性の恋愛やニヒリズムが好きな人は良いかもしれない。あと、次の「失われた横顔」は非常に面白いので、そのために読むくらいがちょうどいい。(読まなくても全く支障はない)