nearproの日記

特に意味はありません。主に読んだ本をただただ記録します。

若き日の思い出

若き日の思い出 (新潮文庫)

若き日の思い出 (新潮文庫)

武者小路実篤といえば「友情」という不朽の失恋小説があり、また、「愛と死」という純愛小説の極みがあるのですが、「若き日の思い出」はこの2つに並ぶ実篤の素晴らしき恋愛小説。

武者小路実篤らしい自己がやや肥大化した主人公の野島が、友人宮津の妹、正子と出会い、その愛が成就する過程を描く。野島の思い違いや自意識過剰など感情の揺れ動きはあるものの「友情」や「愛と死」のような悲劇はなく、半ば予定調和的に二人は結ばれる。

まさに平凡な物語ではあるが、老成した実篤の筆はその平凡さの貴さと美しさを見事に書き出している。読んでいてニヤニヤしてしまうほどただただ二人が羨ましく(もはやバカップルと言ってもいい)、また、登場する全ての人が気持ちよい。この辺りは真理先生をはじめとする馬鹿一ものに通じる。読んでいて幸せな気持ちになれる。

恋愛と言うものは一人前になる為に与えられているようなもので、理想の相手を求めると共に、自分を理想の人間にしようという努力が自ずと生まれてくるわけのものです

敗戦後の日本において、このような小説によって武者小路実篤は日本人に再び立ち上がる勇気を与えたんじゃないかと思う。あるいは、すべての童貞に勇気を。