谷崎潤一郎マゾヒズム小説集
- 作者: 谷崎潤一郎,千葉俊二
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2010/09/17
- メディア: 文庫
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谷崎潤一郎といえばマゾ。そんなマゾな短編を6篇収録。特に好きなのは『少年』と『日本におけるクリップン事件』
『少年』は官能小説かと思うほどドエロい。性への目覚めもまだであろう少年少女の無邪気な遊びなんでしょうが。鼻くそを練り込んだお菓子を食べさせたり、もはやスカトロ。いじめまくってた女性に一転して支配されるといのが、マゾヒズムの快楽のある種の極みなんですよね。本当のマゾヒストっていうのはややもするとサディストに見えると思います。
『日本におけるクリップン事件』。実際にあったクリッペン博士の殺人事件をヒントに谷崎が作った日本版クリップン事件。SMプレイ中、偶然細君は犬に喰われた。ところが、その犬は実は主人に調教され、事前に顔と首に噛み付くことを覚えた犬であった。という筋で、それが芸術的か否かは別としてまぁおもしろい。ただそれよりも、マゾヒストに対する谷崎の解説が非常に鋭く、谷崎はやはり真性のドMなんだと確証しました。
マゾヒストは女性に虐待されることを喜ぶけれども、その喜びはどこまでも肉体的、官能的なものであって、毫末も精神的の要素を含まない。人或はいわん、ではマゾヒストは単に心で軽蔑され、翻弄されただけでは快感を覚えないのか。手を以って打たれ、足を以って蹴られなければ嬉しくないのかと。それは勿論そうとは限らない。しかしながら、心で軽蔑されるといっても、実のところはそういう関係を仮りにこしらえ、あたかもそれを事実である如く空想して喜ぶのであって、いい換えれば一種の芝居、狂言に過ぎない。
つまりマゾヒストは、実際に女の奴隷になるのではなく、そう見えるのを喜ぶのである。(中略)彼等は彼等の妻や情婦を、女神の如く崇拝し、暴君の如く仰ぎ見ているようであって、その真相は彼等の特殊なる性慾に愉悦を与うる一つの人形、一つの器具としているのである。人形であり器具であるからして、飽きの来ることも当然であり、より良き人形、より良き器具に出遇った場合には、その方を使いたくなるでもあろう。
解題によればジル・ドゥルーズは「マゾヒストは専制的女性を養成せねばならない。説得し、契約に『署名』させなければならないのだ。マゾヒストは本質的に訓育者なのである」と言った。この教育と、その後に起こる逆転の芝居こそ、マゾヒストの快楽の源泉なんでしょう。
今年は谷崎潤一郎、没後50年の年で、来年は生誕130年の年。ということで、谷崎ブームが起こることを期待してます。(ちなみに、武者小路実篤は今年が生誕130年、来年が没後40年)
年明け早々に、1964年のノーベル文学賞で候補に、川端康成、三島由紀夫、西脇順三郎とともに入っていたこと、更に日本人の中で最も谷崎が評価され、最終選考の6人にまで絞られていたことがニュースになってましたし、谷崎ブーム、あると思います。